「無宗教です」と言う日本人が、なぜ神社やお寺に行くのか?|現代日本人の不思議な宗教観

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「あなたは何か宗教を信じていますか?」
そう聞かれると、「特にありません」「無宗教です」と答える日本人は少なくありません。
ところが、その同じ人が正月になると神社へ初詣に行き、お盆には墓参りをし、法事ではお寺に行き、受験前には神社で合格祈願をする。
さらに、結婚式は教会、葬式は仏式、正月は神社ということも珍しくありません。
一見すると、これはかなり不思議な行動です。
「無宗教なのに、なぜ宗教施設に行くのか?」
しかし、ここには日本人の宗教観を理解する重要なヒントがあります。
結論から言えば、日本人の「無宗教」は、必ずしも「神も仏も一切信じない」という意味ではありません。
むしろ日本では、特定の宗教団体に所属しないことと、宗教的な文化や習慣を持たないことが別になっているのです。
「無宗教=宗教を否定している」ではない
まず、「無宗教」という言葉の意味を分けて考える必要があります。
欧米などでは、宗教は「自分はキリスト教徒である」「自分はイスラム教徒である」といった所属や信仰告白と結びつきやすい傾向があります。
一方、日本では、
- 特定の宗派に所属していない
- 毎週礼拝に行かない
- 教義を信じているという自覚がない
- 宗教団体に入っていない
という意味で「無宗教」と答える人が多くいます。
つまり、
「宗教団体には所属していない」
ことと、
「神社やお寺にまったく意味を感じない」
ことは同じではありません。
実際、Pew Research Centerが2023年に日本を含む東アジアで行った調査では、日本の成人の42%が「無宗教」と回答する一方、46%は仏教徒と回答しています。さらに、日本では「宗教」として神道を選ぶ人は4%にとどまる一方、27%が「神道の生き方」に個人的なつながりを感じると回答しています。
ここに、日本人の宗教観の特徴が表れています。
日本人は「宗教」より「習慣」として宗教文化に接している
日本人にとって神社やお寺は、必ずしも「信仰する場所」だけではありません。
生活の節目に訪れる場所でもあります。
たとえば、
- 初詣
- 七五三
- 厄払い
- お宮参り
- お盆
- お彼岸
- 墓参り
- 法事
- 合格祈願
- 安産祈願
- 地域のお祭り
などです。
庭野平和財団の2019年の調査では、神社に行く機会として「初詣」が69.4%で最も多く、「七五三」が25.3%、「お祭り」が23.4%、「厄除」が19.0%でした。
一方、お寺では「お盆やお彼岸」が47.7%と最も多くなっています。
ここから見えてくるのは、日本人が神社やお寺を「宗教施設」としてだけ利用しているわけではないということです。
むしろ、
人生の節目や季節の行事を確認する場所
として利用している面があります。
初詣に行っても「神道の信者」とは限らない
たとえば、正月に神社へ行く人を考えてみましょう。
その人に、
「あなたは神道を信仰していますか?」
と聞いたら、
「いや、特に信仰していません」
と答えるかもしれません。
しかし、
「初詣には行きますか?」
と聞けば、
「毎年行きます」
となる。
これは矛盾しているように見えます。
しかし、本人の中では矛盾していないのです。
初詣は、
「神道を信仰するため」
というより、
「新しい一年を迎えるための恒例行事」
になっているからです。
家族で行く。
おみくじを引く。
お守りを買う。
一年の無事を願う。
そして帰りに食事をする。
この一連の行動が、宗教というより「日本の正月文化」になっています。
つまり、宗教が文化の中に溶け込んでいるのです。
日本では「神様」と「宗派」の境界が比較的ゆるい
日本の歴史を考えてみても、この特徴には理由があります。
日本では古くから、神道的な信仰と仏教が複雑に共存してきました。
神社とお寺が明確に分離されていなかった時代も長く、神と仏を組み合わせて理解する考え方も広く存在しました。
そのため、
「神を信じるなら仏は信じてはいけない」
という排他的な発想が、必ずしも日本人の生活文化の中心にはなりませんでした。
現在でも、
正月は神社。
お盆はお寺。
結婚式はキリスト教式。
クリスマスはイベント。
という組み合わせが成立します。
外から見ると「節操がない」ようにも見えます。
しかし別の見方をすれば、これは宗教を一つに限定しない柔軟な文化とも言えます。
「神様を信じている」というより「何となく大切にする」
Pew Research Centerの調査で特に興味深いのは、日本では「無宗教」と答えた人の中にも神様への敬意を示す人がいることです。
2023年の調査では、日本人全体の38%が「神(kami)に祈ったり敬意を示したりする」と回答しました。
さらに、「無宗教」と回答した人でも25%が神に祈ったり敬意を示したりすると答えています。
これは非常に面白い数字です。
「無宗教なのだから神様など信じない」
とは限らないからです。
日本人の中には、
「神様が本当に存在するかは分からない」
「でも神社では静かな気持ちになる」
「願い事をすることはある」
「先祖は大切にしたい」
という感覚があります。
これは、明確な教義への信仰とは少し違います。
むしろ、
「よく分からないけれど、何か大切なものとして扱う」
という宗教感覚です。
お寺は「死」や「先祖」とつながっている
神社とお寺では、日本人との関係にも少し違いがあります。
神社は、
「新年」
「子どもの成長」
「厄除け」
「願い事」
「地域のお祭り」
など、現在や未来に関係する場になりやすい。
一方、お寺は、
「お盆」
「お彼岸」
「墓参り」
「法事」
など、先祖や死者との関係で訪れることが多くなります。
先ほどの調査でも、お寺に行く機会として「お盆やお彼岸」が47.7%で最も高くなっています。
つまり日本人にとってお寺は、
死者を思い出し、自分が受け継いできた家族の歴史を確認する場所
という側面があります。
これも必ずしも「仏教を深く信仰している」という意味ではありません。
「親がそうしていたから」
「祖父母の墓があるから」
「お盆だから」
という理由で訪れる人も多いでしょう。
「無宗教」は日本社会における一つの宗教的スタイルなのか
ここまで考えると、「無宗教」という言葉そのものにも疑問が出てきます。
本当に日本人は無宗教なのでしょうか。
もちろん、宗教をまったく信じない人もいます。
しかし、
- 初詣に行く
- 神社で手を合わせる
- お守りを持つ
- お盆に墓参りをする
- 先祖を供養する
- お彼岸に墓を掃除する
- 地域の祭りに参加する
という行動を考えると、「宗教が存在しない」と言い切るのも難しいでしょう。
むしろ日本では、
「宗教を信じている」という自己認識が弱いまま、宗教的な文化を実践している
と考えたほうが実態に近いのかもしれません。
これは日本人の「信仰が弱い」という話でもない
ここは注意したいところです。
日本人の宗教観を、
「日本人は宗教に無関心だから」
と単純に説明するのは正確ではありません。
宗教団体への所属や教義への信仰は弱くても、先祖、自然、神社、墓、祭り、季節の行事などを大切にする人はいます。
つまり、
制度としての宗教は弱いが、宗教的な文化や感覚まで消えているわけではない
ということです。
2024年のPew Research Centerの調査でも、日本では「自分の宗教」とは別に、他の宗教・哲学的伝統とのつながりを感じる人が55%に達しています。
これは、日本人の宗教観が「一つの宗派を選ぶ」というモデルだけでは説明しにくいことを示しています。
現代日本では「宗教」より「意味」が残っている
では、これから日本人の宗教観はどうなっていくのでしょうか。
私は、宗教が単純に消えていくというより、宗教の中から「意味のある部分」だけが生活文化として残っていく可能性があると思います。
たとえば、
「初詣に行く」
という行為から、宗教的教義を取り除いても、
「一年の始まりに、自分の生活を振り返る」
という意味は残ります。
「墓参り」から特定の宗派への帰属意識を取り除いても、
「亡くなった家族を思い出す」
という意味は残ります。
「お祭り」から宗教的な意味を完全に説明できなくても、
「地域の人が集まる」
という社会的な意味があります。
つまり現代人は、宗教そのものを拒絶しているというより、
宗教から人生に必要な意味や習慣だけを取り出して使っている
とも考えられます。
「無宗教だけど神社に行く」は、実はそれほど不思議ではない
結局、
「無宗教なのに、なぜ神社やお寺に行くのか?」
という最初の疑問に対する答えは、
日本では宗教と文化、習慣、家族行事が強く結びついているから
ということになります。
「私は無宗教です」
という言葉も、
「私は一切の宗教的価値観を持っていません」
という意味ではなく、
「特定の宗教団体や教義には所属していません」
という意味で使われている場合があります。
だからこそ、
「無宗教なのに初詣に行く」
「無宗教なのに墓参りをする」
「無宗教なのに神社で願い事をする」
という一見矛盾した行動が成立するのです。
そして、この現象は日本人の宗教観を考える上で、とても重要です。
宗教を「信じるか、信じないか」の二択で考えると、日本人の行動は分かりにくくなります。
むしろ、
信仰する、習慣として行う、文化として受け継ぐ、人生の節目で利用する、何となく敬意を払う。
こうした連続したグラデーションで考えると、日本人の宗教観が見えてきます。
「無宗教」という言葉の裏側には、何もないのではありません。
そこには、神社、お寺、先祖、自然、季節、家族、地域、人生の節目などが複雑に重なった、独特の日本文化が残っています。
そして、現代日本を理解するためには、「日本人は何を信じているのか」だけではなく、
「日本人は何を大切なものとして扱っているのか」
を見ることが、ますます重要になっているのではないでしょうか。
参考資料
文化庁は毎年「宗教統計調査」を実施しており、神道系・仏教系・キリスト教・諸教などの宗教団体、教師、信者数を公表しています。なお、この統計の「信者数」は宗教団体からの報告に基づくため、一般の世論調査で尋ねる「自分は何宗教か」という自己認識とは単純に比較できません。
また、Pew Research Centerの2024年調査は、日本人の宗教的所属だけでなく、神への敬意、宗教的伝統とのつながりなどを調べており、日本人の宗教観を考える上で非常に参考になります。


