墓じまいが増えると、日本の宗教はどう変わる?|「先祖供養」のこれからを考える

墓石と供花、線香が置かれた墓を背景に、「墓じまいが増えると、日本の宗教はどう変わる?」「先祖供養のこれからを考える」と書かれたアイキャッチ画像。

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「墓じまい」という言葉を聞くと、「お墓をなくす人が増えている」という話に思えるかもしれません。

しかし、問題の本質は、単に墓石が減っていることではありません。

その背景には、人口減少、少子化、都市への人口移動、家族構成の変化、そして「先祖をどう供養するのか」という日本人の宗教観そのものの変化があります。

これから墓じまいがさらに増えたとき、日本の仏教や寺院、そして「先祖供養」はどう変わっていくのでしょうか。

墓じまいは「お墓を捨てること」ではない

まず、墓じまいを考えるときに注意したいのが、「墓じまい=先祖を大切にしなくなる」という単純な図式ではないことです。

墓じまいでは、現在のお墓から遺骨を取り出し、別の墓地や納骨堂、永代供養墓などへ移すことがあります。

この「遺骨を別の場所へ移すこと」を「改葬」と呼びます。

厚生労働省の衛生行政報告例によると、2024年度の全国の改葬件数は176,105件でした。2023年度は166,886件、2022年度は151,076件で、近年増加しています。なお、改葬件数は「墓じまいをした墓の基数」そのものではなく、遺骨を別の場所へ移す手続きの件数です。したがって、「年間17万基のお墓がなくなった」という意味ではありません。

それでも、長期的に見れば、家族が先祖代々の墓を維持し続けることが難しくなっていることを示す重要な数字です。

なぜ墓じまいが増えているのか?

大きな理由の一つは、「墓を守る人」が減っていることです。

昔の日本では、

「親が亡くなる」

「子どもが墓を継ぐ」

「その子どもが次の世代へ引き継ぐ」

という家族単位の継承が比較的成立していました。

ところが現在は、子どもがいない、子どもが遠方に住んでいる、一人っ子同士の結婚で双方の墓を管理することになる、といったケースが珍しくありません。

さらに、地方の墓を都市部に住む子世代が管理するという問題もあります。

実際、墓じまいに関する民間調査では、「お墓が遠方にあること」や「継承者がいないこと」が主要な検討理由として挙げられています。

つまり墓じまいの増加は、

「先祖を大切にしない人が増えた」

というより、

「昔と同じ方法では先祖を供養し続けることが難しくなった」

と考えたほうが実態に近いでしょう。

人口減少は「家の宗教」を維持できなくする

この問題をさらに大きくしているのが人口減少です。

厚生労働省の人口動態統計を見ると、日本では出生数の減少が続く一方、死亡数は出生数を大きく上回る状態になっています。2025年についても、人口動態統計の年計が公表されています。

これは単に人口が減るというだけではありません。

「家」という単位そのものが小さくなっていくということです。

例えば、昔なら、

祖父母

父母

子ども

という複数世代が近い地域に住み、墓参りや法事を共同で行うことができました。

しかし、現在は一人暮らし、高齢夫婦、子どものいない世帯、遠距離居住などが増えています。

すると、

「誰がお墓を管理するのか?」

という問題が必ず出てきます。

宗教の問題であると同時に、家族制度と人口構造の問題なのです。

墓じまいが増えると「寺院との関係」も変わる

ここが日本の宗教にとって非常に重要なポイントです。

日本の仏教寺院は、葬儀や法事だけでなく、墓地の管理を通じて地域住民や檀家との関係を維持してきました。

ところが墓じまいが増えると、

「先祖代々のお墓があるから、その寺と関係を持つ」

という関係が弱くなる可能性があります。

つまり、

墓が寺院との接点になっていた時代から、墓がなくても必要なときだけ寺院と関わる時代へ

変化する可能性があります。

文化庁の宗務関係資料でも、人口減少が進む地域では、氏子・檀信徒・門徒・信者の減少によって社寺や教会施設の維持が難しくなり、宗教法人そのものの存続が困難になる問題が指摘されています。

これは、墓じまいだけを見ていては分からない問題です。

墓じまいは、寺院と地域社会の関係が変化していることの一つの表れでもあるのです。

では、「先祖供養」はなくなるのか?

私は、必ずしもそうはならないと考えます。

むしろ、

「先祖供養の形が変わる」

と考えたほうがよいでしょう。

これまでの先祖供養は、

  • 墓参りをする
  • 仏壇に手を合わせる
  • 年忌法要を行う
  • 菩提寺にお布施をする
  • お盆や彼岸に墓へ行く

といった「場所」と「儀礼」を中心にしていました。

ところが、墓じまいが進めば、この形を維持できない家庭が増えます。

そこで、

「納骨堂に遺骨を預ける」
「永代供養を利用する」
「自宅で手を合わせる」
「写真や思い出を大切にする」
「命日だけ故人を思い出す」

など、より個人的で柔軟な供養が増えていく可能性があります。

つまり、

墓がなくなることと、先祖を忘れることは同じではありません。

ここは非常に重要です。

「宗教」から「供養」へ、そして「記憶」へ

これからの日本では、「宗教を信じているかどうか」と「先祖を大切にするかどうか」が、ますます別の問題になっていく可能性があります。

例えば、

「特定の宗派を信仰しているわけではない」

という人でも、

「亡くなった親には感謝している」
「お盆には故郷を思い出す」
「墓参りはできなくても、写真に手を合わせる」

ということはあります。

ここには、日本人の宗教観の大きな変化があります。

従来の宗教では、

寺院 → 儀礼 → 墓 → 家族

というつながりが重要でした。

これからは、

個人 → 記憶 → 家族 → 供養

という形が強くなるかもしれません。

宗教施設に行かなければ供養にならない、という考え方が弱くなっていくのです。

ただし、墓じまいには「失われるもの」もある

ここで、墓じまいを肯定的にだけ捉えるのも危険です。

墓には、単なる遺骨の保管場所以上の役割があります。

そこへ行けば、

「自分にはこういう祖父母がいた」
「この人が自分の親だった」
「自分も長い家族の歴史の中にいる」

ということを実感できます。

墓は、家族の記憶を保存する「場所」でもあるのです。

墓じまいによって管理負担が軽くなる一方で、その場所が失われることで、次の世代が先祖を知る機会も減るかもしれません。

だから重要なのは、

墓を残すか、墓じまいするかという二択ではありません。

墓をなくした後に、

「どうやって先祖の記憶を残すのか」

まで考えることです。

これから必要になる「新しい先祖供養」

私は、これからの先祖供養には三つの方向が考えられると思います。

1.墓を小さくする

大きな家墓を維持するのではなく、納骨堂や永代供養墓など、管理しやすい形へ移行する方法です。

2.供養を生活の中に戻す

特別な法事だけではなく、命日に故人を思い出したり、家族で思い出を語ったりする。

宗教儀礼を簡素化しながら、故人とのつながりを残す方法です。

3.「家」ではなく「個人」を中心にする

これまでの先祖供養は「家」が中心でした。

しかし今後は、

「自分が亡くなった後、子どもに負担を残したくない」

という考え方が強くなるでしょう。

その結果、

「自分はどのように弔われたいか」

を生前に決める時代になっていきます。

これは終活の普及ともつながっています。

日本の宗教は「なくなる」のではなく、形を変える

墓じまいが増えると、

「日本人は宗教離れしている」

という話が出てきます。

確かに、寺院や檀家制度など、従来型の宗教との関係は弱くなる可能性があります。

しかし、それだけで「日本人が先祖や死者を大切にしなくなる」と結論づけるのは早いでしょう。

むしろ、

宗教を家や寺院に任せる時代から、自分自身で供養の形を選ぶ時代へ

移行していると考えられます。

これは宗教にとって危機であると同時に、新しい可能性でもあります。

寺院側も、

「墓を管理する場所」

だけではなく、

「人生や死について考える場所」
「地域の人が集まる場所」
「先祖や家族について語れる場所」

として役割を広げていく必要があるでしょう。

まとめ――墓じまいは「先祖供養の終わり」ではない

墓じまいの増加は、日本社会の大きな変化を映しています。

人口減少、少子化、核家族化、都市への人口移動によって、昔ながらの「家で墓を守る」という仕組みが維持しにくくなっています。

その結果、改葬件数も増加しています。2024年度には全国で176,105件となりました。

しかし、ここから、

「墓がなくなる」

「先祖供養がなくなる」

「宗教もなくなる」

と考える必要はありません。

むしろ起きているのは、

「先祖供養の場所」と「先祖供養そのもの」が分離していくこと

なのではないでしょうか。

墓を持たなくても、故人を思い出すことはできます。

寺院の檀家でなくても、死者に手を合わせることはできます。

そして、家族の歴史を次の世代に伝えることもできます。

これからの日本で問われるのは、

「墓を残せるか」ではなく、「墓がなくなった後も、何を残すのか」

なのかもしれません。

墓じまいは、先祖供養の終わりではありません。

それは、日本人が長い間続けてきた「死者との付き合い方」を、人口減少時代に合わせて作り直す動きなのです。